【映画館】TATAMI

柔道の世界大会にて、イラン代表がイスラエル代表との試合を回避するよう強要される、という実話をもとにした緊迫のポリティカルスポーツエンターテイメント。
美しいモノクロ映像にスタンダードサイズで展開する自由を懸けた戦いに震えるものがあった。
イランの状況を垣間見て戦慄しつつ、躍動感ある柔道の試合やモノクロの映像美も見どころ。
【映画館】ANORA

ショーン・ベイカー監督による今年のアカデミー賞5部門受賞を達成した作品。最高だった。
ストリップダンサーのアノーラがロシアの度を越えた御曹司イヴァンに見初められ、1週間の契約彼女としてともに豪勢に過ごすのだが、最後の思い出にと赴いたラスベガスにて勢い半ばで結婚してしまう。SNS経由でそれを知ったオリガルヒの長であるイヴァン両親が激怒し、アメリカでの世話役を送り込みイヴァンは逃走。アノーラは送り込まれたおじさんと4人でイヴァンを探して周り…という話。
シンプルな物語のなかに最高に面白いドタバタ劇と凄まじく揺れ動くアノーラの心の様が力強く描かれる。
監督のレッドロケットも最高に良かったのだが、これまた素晴らしすぎた…!
R18だが大変おすすめ。
【Prime Video】映画大好きポンポさん
Prime Videoにて配信されている2021年のアニメ映画。原作は漫画作品である。
敏腕映画プロデューサーのポンポさんの製作アシスタントのジーンが、ある日ポンポさんの脚本の映画の監督に抜擢され奮闘する、という話。
映画作りの流れなど興味深く、監督の映画作りの苦悩が入念に描かれていく。全身全霊で創作、製作にあたっていく姿が激アツ。
【映画館】バッドランズ

テレンス・マリック監督のデビュー作にして日本劇場初公開作品。
恋人であるキットに父親を殺されちゃったホリーは、キットとともに破滅的な逃避行を繰り広げるアメリカン・ロードムービー。映像が美しく、どこか現実離れした演技とマリンバの音色が印象的なテーマ音楽が不思議な世界観を作り出している。
かと思えばすさまじいカーチェイスもあったりしてハッとしたり。
【映画館】ノー・アザー・ランド 故郷は他にない

97回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞作。
ヨルダン川西岸のパレスチナ人居住地区<マサーフェル・ヤッタ>ではまさにイスラエル軍からの破壊行為と占領の危機にさらされている。そのさまを取り続ける<マサーフェル・ヤッタ>の青年バーセルと、彼を手伝おうとやってきたイスラエル人記者ユヴァルという同い年のふたりの若者の命がけの活動の4年間の記録である。
監督は彼ら二人を含むパレスチナ人2人、イスラエル人2人の計4人で作られている。
「違法だ」と言い張って無闇に人が住んでいる家を取り壊し、子どもたちが学んでいたその学校を取り壊し、井戸にセメントを流し込み、水道も破壊する。とんでもない無法な行いが連日繰り広げられ、時には人の命すら危機にさらされるのである。
そこで暮らす当事者だからこそのあまりの臨場感と圧倒的な不条理が克明に記録されている。
とにかく今見てほしい一作である。
あまりのことに戦慄した。
一方で懸命に生きる人々の意思と、命がけの友情に一縷の希望も感じられた。
アカデミー賞の授賞式に2人が無事現れて本当に良かったものである。
【映画館】クルージング

フリードキン監督の1980年のリバイバル。昨年も映画館で観たが新文芸坐にて2度目の鑑賞。
新文芸坐は大スクリーンとすばらしい音響の映画館なので、大変おすすめ。思わぬ上映があったりもするのでちょいちょいチェックしておきたい映画館である。

上映後には『平山夢明のシネマdeシネマ』出張編ということで平山先生とギンティ小林さんによる濃密トークも。平山先生のトークコンテンツ大好き人間としてはまじで最高であった…!
【Prime Video】密輸1970
昨年日本公開された海女さんが大活躍する韓国映画。
話題は聞いていたが、この度Prime Videoに入ったということで観たがこれが最高に楽しかった。
1970年代の韓国にて、工場の排水のせいで仕事にならない海女さんたちが困窮から密輸に手を染め、誰かの裏切りによって逮捕され、出所してからも男たちに搾取されるし裏切り者と思われたヤツも戻ってきて…という話。
韓国らしいバイオレンス・アクションもありつつ、さらには海中最強の海女さんによる水の中のアクションもたまらない。
いい感じにレトロな70年代っぽいムードも満点でたいへん楽しめる一作である。かなりおすすめ。
【映画館】ロングレッグス

話題のホラー映画。視覚的創造に満ちた映像が堪能でき大満足であった。
若手女性FBI捜査官とシリアルキラーの話、という建付けが羊たちの沈黙なんかを想起させるわけだが、そんなサイコスリラー然とした作りではあるもののそう思ってみてると足元を掬われる。
原型をとどめていないニコケイもすばらしい。
あくまでもホラーとして観るとかなりいい作品である。
パンフレットにもインタビュー記事が掲載されている平山夢明先生の解説は必見。
【映画館】スイート・イースト 不思議の国のリリアン

予告がやたら気になったので観てみたアメリカ映画。内容は素っ頓狂でわかりにくいが映像が美しくてなんか良かった。
もともと撮影監督出身の監督ショーン・プライス・ウィリアムズによる。
修学旅行でワシントンDCに来ていたなんか醒めてる女子高生リリアンが、夜みんなで抜け出してやってきたカラオケバーで陰謀論に取り憑かれた男による銃乱射事件に巻き込まれ、居合わせた客ケイレヴとともにトイレの鏡の裏にあった秘密の通路から外へと抜け出す。ケイレヴは反ファシズムグループのメンバーであり、なんとなく活動に参加することにしたリリアンはそのままチャームシティへ行き、集会場に行く前にはぐれて今度はネオナチの白人男性の集会に迷い込みそこで出会ったローレンスというインテリネオナチマンの家の部屋を使わせてもらうことになり…といった感じで流れに身を任せるリリアンの珍道中がアメリカの東部を北上する感じで繰り広げられる映画である。
アメリカというくにの何処かいびつな感じが風刺的に描かれつつ、しかしそれらを意に介さず消費するかのように受け流していくリリアンの姿がとても楽しい。
上映後に映画評論家の町山智浩氏による解説映像付きの回を観ることができたので、町山氏が監督本人にインタビューしたことをもとに、随所に込められた意図や、そんなのわからんよ!というギャグの数々を知ることができたので助かった次第である。
とはいえ映像すごい良いしよくわかんなくても楽しめるはず!(あとリリアンかわいい)。

【Prime Video】NIMIC
ヨルゴス・ランティモス監督による12分のショート映画。
チェロ奏者の男が電車の向かいの席に乗っていた女性に時刻を聞いたところ女性は言葉を鸚鵡返しする。そして家までついてきたその女性に家庭や地位など含め、男性の存在そのものを乗っ取られてしまう、という珍映画。
ランティモス監督っぽさ全開で楽しめるおすすめショート。
冒頭のオーケストラの音、最初はギャグかって使い方なんだが、いい味がでてくるのである。
【映画館】教皇選挙
教皇が亡くなり密室のコンクラーベが始まり、取りまとめ役となった首席枢機卿のローレンスがあれこれ頑張る映画。規定の票が1人に集まるまで繰り返されるコンクラーベの中で、初のアフリカ系教皇?保守派が返り咲く?それとも…?といった感じで候補者が二転三転するドラマがこれでもかと巻き起こる。ド派手な事件も起きちゃう。重厚な見た目に圧倒的なエンターテインメント性を盛りに盛った傑作だった。映像的にいちいち格好良く演技も音楽もイイ。
アカデミー賞脚色賞受賞作。おすすめ。
題材に疎くても問題ないくらい面白い作りであった。
より深く理解する助けになるパンフも見応えアリである。
【映画館】Flow
ラトビアのギンツ・ジルバロディス監督の最新作アニメーション。なにやらすごいものを目の当たりにしたような鮮烈な映像体験だった。
生活していた痕跡はあるものの人が一切見受けられない世界にて、謎の大洪水が発生する。黒猫は居場所を離れ逃げ惑い、流れてきた小舟に避難する。そこには先客のカピバラがおり、その後もキツネザルやヘビクイワシ、ゴールデンレトリーバーなどが同乗することになり、不思議な友情を育みながらも沈みゆく世界を船で旅する物語である。セリフやナレーション、テキストでの説明も一切なく、動物たちは擬人化されていないのだが、感情豊かで動きも非常にリアル。景色もとても美しい。
ギンツ・ジルバロディス監督はかつてたった1人で作り上げたAwayという作品も公開されているが、今回はチームで制作にあたったそうな。
そんなアカデミー賞長編アニメーション賞受賞作である。
【映画館】ヨルゴス・ランティモス特集
近所での公開を期待していたが見逃すのが恐いので遠出して鑑賞してきたヨルゴス・ランティモス特集である。
監督作で長編デビュー作の「KINETTA」、製作・出演の「ATTENBERG」、監督作「ALPS」の3本を立て続けに鑑賞。かなり濃い時間を過ごしてしまった(さすがに疲れた)。
どれもぶっ飛んでたが、一番意味わからんかったKINETTAが一番印象深かった。
事前にあらすじ読んでおいてどうにか状況が掴めるかな?という説明不足っぷりだし、その前にそのあらすじ自体が意味不明気味という攻めた作品であった。しかしなぜか見入ってしまったという…また観たい。
【映画館】犬と戦争 ウクライナで私が見たこと
2022年から2024年にかけて、戦禍のウクライナに3度渡った山田あかね監督による、戦場にて犬を助ける活動をする人々を追ったドキュメンタリー。
ウクライナの状況を知るきっかけになればという思いもあり鑑賞。どうしても動物と人間の共生はヒト側の都合になってしまうと思っているのだが、とはいえときに軽視されかねない命を全力で助けようとする人たちがいることはひとつの希望かもと思える。ウクライナは街をあげて野良犬を飼っているような文化があったりする模様。
【映画館】白夜
ロベール・ブレッソン監督の1971年の作品の4Kレストア版でのリバイバルを観てきた。
原作はドストエフスキーで、その舞台を撮影当時のフランスに置き換えた構成になっている。
画家見習いのジャックは理想の女性との出会いを妄想してはテープに音声を吹き込む珍な癖をもっていた。夜の街を歩いていて自殺を図ろうとしていた若い女の子・マルトを思いとどまらせる。聞けば1年前にここで再開を誓った男が現れなかったとか。マルトへ恋心のようなものを抱き、連日献身的に話し相手になってくれるジャックにマルトもいつしか惹かれていくのだが…という話。
とにかく映像が美しい。パリの街並み、夜のセーヌ川、また演技経験がなかったという若い二人、どれもこれも目を離し難い魅力に満ちている。街なかで奏でられる音楽もとてもよい。
結末のもたらす余韻もすばらしい。
【映画館】エミリア・ペレス
メキシコにて疲弊しながら弁護士をするリタは、ある日ほとんど拉致される形で仕事を依頼される。依頼元は麻薬カルテルのボス・マニタス。彼はあしのつかない形で「性適合手術」ができる医師を探していた。そうして妻子含め多くを捨て、本当の自分の人生を歩もうとしていたのだ。依頼を完ぺきにこなしたリタだったが、数年後エミリアと名乗る女と出会う。彼女は元マニタスであり、彼女はリタの助けを借り「マニタスのいとこ」として妻子とともに暮らし始めるのだが…といった話。
97回アカデミー賞にて、非英語作品としては史上最多となる12部門13ノミネートを果たした作品であり、ゾーイ・サルダナが助演女優賞を獲得している。エミリア(マニタス)役は実際にトランスジェンダーのカルラ・ソフィア・ガスコンが演じており、主演女優賞にもノミネートされている。ただ彼女の過去の差別的な発言が掘り返されてアカデミー賞ではふるわずとなっている。
しかし作品としてはかなりおもしろかった。クライムサスペンス的な要素も強いのだが、コメディ要素もあり、実はミュージカル的な作りでまたその楽曲もかっこよかったりする。そして後半はメキシコの抱える社会問題に軸足が置かれだし、なんともエネルギッシュで忙しい映画である。
【映画館】ベイビーガール
ニコール・キッドマンが主演の『エロティック・スリラー』なるA24作品。監督はハリナ・ライン。
完璧なCEOであり完璧な母親、妻でもあるロミーは、実は満たされない想いを抱え込んでいた。そんな内なるものをインターンの青年・サミュエルに見抜かれ、行き過ぎな行動を咎めようとしていたのだがどんどん深みにハマっていく、というもの。
「男性が思い描くファンタジックな女性像は存在し得ない」と考えるのは古い価値観、というハッとさせられるようなセリフも飛び出し面白かった。
映像が整然としておりなにやらおしゃれな感じである。おしゃれなオフィスはA24のオフィスなのだとか。
映画館で鑑賞した作品から5作品選定したのがこちら。
- ロングレッグス
- スイート・イースト 不思議の国のリリアン
- ANORA
- ノー・アザー・ランド 故郷は他にない
- KINETTA
他のも良かったのが多かった…!